≪アノンの心臓≫

【あらすじ】
 2008年は奇妙な年だった。
 日本中で奇妙な事件が相次ぎ、その事件の解明を待たずして次の奇妙な事件が起きて、警察はいつだっててんてこ舞いだったのだ。
 集団行方不明に猟奇殺人、まるで妖怪のような怪生物の目撃情報――目撃情報ならまだ可愛い方で、見たことも聞いたことも無い動物に襲われたという人間も数多く現れていた。そんな状況の中で某国崩壊を切欠として北東アジアを中心に巻き起こった大不況の嵐が日本をも直撃、増大する社会不安の中で人々の抑圧された精神に末世思想の新興宗教がつけこむなどして、それはとってもデンジャラス。
 新宿などの駅前では難民排斥を叫ぶ右翼団体と難民保護を叫ぶ左翼団体と警察の不手際による未解明事件の究明を叫ぶ被害者団体と怪生物保護を叫ぶ動物愛護団体と難民女性暴行事件を切欠に活動が活発化した女性権利団体とそんな世界に見切りをつけ来世の幸せを叫ぶ新興宗教の街宣車がくつわを並べて街宣合戦を繰り返し、それを面白がって煽るマスコミと、止めさせようと奔走する機動隊が出動して大混乱。叫ばれる思想の自由と宗教の自由、法の番人たる官憲は無許可デモの不当性を詰り、反発する主張者たちの権利運動は暴動へ超進化。混迷する日本社会はどこへ向かうのか。
 さてその翌年である2009年の4月1日、日本国内某所にある筒貫町で一件の猟奇殺人事件が起こった。
 とはいうものの、それが後の世界異変に繋がる一連の事件の幕開けなどということはなく、それはただ止めることの出来ない世界の変化の中で発生した、ごく有り触れた一つの悲劇でしかなかった。だからといってその有り触れた事件というのだって、その関係者にとっては胸を裂くほどつらい出来事であったのは否定のし難い事実である。
 ともかく少年、安遠一好は死んだ。首から上だけの姿になって発見され、首から下はとうとう見つからなかった。
 まずはその前日である3月末日の出来事から物語を始めてみよう。
 注☆このお話はあらすじを読めば明白でしょうが恋愛小説です。

プロローグ
・第一章 ≪気の早い蝉時雨≫
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